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教員が語る専門領域の魅力 vol.10

小田桐 奈美 助教

たくさんの言語をカバンにつめて、広大なユーラシア地域へと旅立ちましょう!
小田桐 奈美 助教
Profile
「専門は社会言語学、旧ソ連地域研究、ロシア語教育。旧ソ連地域の中で、ソ連崩壊以降もロシア語が最も維持されている国の一つである、中央アジアのキルギス共和国を主な対象とする。」

旧ソ連地域の言語と社会


国家語制定20周年を記念し、首都ビシュケク市の中心(アラ・トー広場)に掲げられた垂れ幕。「言語の運命は人々の運命」(2009年9月23日撮影)

 私が専門とする社会言語学は、言語を社会との関連の中で研究する学問分野です。私は旧ソ連地域を対象とし、特に中央アジアのキルギスの言語状況と言語政策に関する研究を行っています。具体的には二つの観点に関心を持っています。
 一つ目は、国家建設における言語の役割です。これまで、社会言語学や言語社会学、ナショナリズム研究などの研究領域が明らかにしてきたように、言語は、世界の様々な地域において、歴史的に国家建設の過程で大きな役割を果たしてきました。例えば、日本では明治時代に標準日本語が整備され、国家の象徴として位置付けられ、国語と呼ばれてきました。実は、日本の憲法には言語に関する規定が見当たらず、どこにも日本語が国語であるとは書かれていないのですが、日本語が国語であると広く認識されています。一方、キルギスでは1989年9月23日に、キルギス語が国家語として制定されました。現在は、憲法でもキルギス語が国家語として規定されています。私は、1989年以降キルギスがどのような言語政策を実施してきたのかを研究しています。特に、キルギス語はどの程度普及しているか、またロシア語やその他の言語にどのような地位を与えているのか、といった点に注目しております。

 二つ目は、ある特定の言語を話したり学んだりすることが、個人にとってどのような意味を持つのか、ということです。言語は、個人のアイデンティティの拠りどころとなるばかりではなく、場合によっては「美しい」といった感覚を呼び起こすものでもあります。また、特定の言語を習得することが、国内外における社会的・経済的成功と直結する場合もあります。例えばキルギスでは、言語とアイデンティティの観点から、キルギス人(=キルギス国民ではなく、キルギス民族に属する人)にとってキルギス語がどのような意味を持つのか、ということが活発に議論されています。また、キルギス人以外の民族にとっても、今後どの言語を学んでいくのかが問題になっています。
 現在、日本はグローバル化に直面し、特に日本社会の中で英語やその他の言語をどのように位置づけていくのかが、大きな課題になっています。もちろん、日本とキルギスの言語状況は全く異なるため、キルギスの経験を日本にそのまま適用することはできません。しかし、日本もキルギスも、社会的にどの言語を承認していくのか、次世代にどの言語を託すのか、また自らどの言語を選択し習得していくのか、という答えの見えない課題に直面しています。その点では全く同じ状況にあり、我々が学ぶことも多いと考えています。

担当授業

 現在、主に全学共通科目「ロシア語」を担当しています。世界には、ロシア語を第一言語または第二言語とする人が、2億5000万人以上いると言われています。ロシア語学習を通して、学生の皆さんがロシアをはじめとする広大なユーラシア地域へと活躍の舞台を広げ、世界の多様な価値観を知ることができるよう、お手伝いしていきたいと考えています。


関大ロシア語セクション主催のピロシキ作りの様子


ユーラシアでは、美味しい食べ物が皆さんを待っています!

学生のみなさんへのメッセージ

 このページを見ている皆さんは、少なくとも何かしらの言語に興味を持っている人たちだと思います。言語に興味を持ったきっかけは何ですか?そのきっかけを、是非心の中で大事にあたためながら過ごして下さい。そうすると、日常生活の何気ない場面で、「あ!」という新しい発見があるはずです。