1. トップ
  2. 教員が語る専門領域の魅力
  3. 教員が語る専門領域の魅力 vol.8 宇佐見 太市 教授

教員が語る専門領域の魅力 vol.8

宇佐見 太市 教授

英国作家の思想と英国文化の真髄

宇佐見 太市 教授

Profile

専門は19世紀英国小説研究。文化的・文学的考察が英語教育への応用篇の一つとなりうるという信念のもと、35年の長きにわたって大学に勤めています。

英文学の愉しみ

 高校1年のとき、英語の授業で副読本として使用されたのが、バートランド・ラッセルの『幸福論』やマーガレット・ミッチェルの『風と共に去りぬ』でした。英米の原書を初めて手にしたときの感動は未だに忘れられません。翻訳書に頼りながらも、それらの作品を貪るように読んだものです。英語科の学部生時代は、英会話熱に浮かされましたが、同時に、F. S. フィッツジェラルドやヘミングウェイといった、特にアメリカの作家の小説群に耽溺しました。大学院の修士課程ではたまたま英国の文豪チャールズ・ディケンズとの遭遇があり、その後の博士課程時代を経て現在に至るまで、主として英国19世紀ヴィクトリア朝時代の小説研究に専念してきました。古典の読解を通じてイギリス人の知性・思惟を感知できるのは、私にとってこの上もない幸せです。このイギリス的叡智は、混迷をきわめる現代日本において今でも必須のものだと考えています。

実践知性としての英文学研究

 私が担当している学部の授業は、「英米文学概論」と「英語翻訳演習」です。学生の情操の啓培に少しでも役立てばと願いつつ、授業をしています。明治以降の我が国の西欧への思い入れは強烈なものでした。しかるに今、合理主義が産んだ無機質化した西欧の精神を見る限り、その閉塞状態に慨嘆せざるをえませんが、それを謙虚に自省したのも他ならぬ西欧であったことを忘れてはなりません。とりわけ近代日本の黎明期以来、日本と馴染みが深い英米の文学や文化の考察を通じて、日本と英米の交流の歴史の真の検証を目指したいと思っています。ただ、大学の知の体系と権威が危殆に瀕している昨今、人文学的知性の育成は至難の業です。こうした状況下、私は、英米文学研究によって産み出される実質的な社会的効果も必ず存在するという確信をもって、授業に臨んでいます。後者の授業については、ディケンズの作品を対象として徹底したスロー・リーディングを実践しました。英語運用能力にかなり自信のある人も、きっとディケンズの英文には難渋し、ショックを覚えたことでしょう。この体験を今後の実人生に活かして欲しいのです。

各人の特技が活かせる共生社会を目指しましょう

 これまで善だと信じてきた近代理性主体の学理からいったん脱して、根本的なパラダイム転換を真剣に模索し、時代の課題をしっかりと受け止めた学知の創生に努めましょう。