研究活動 2014年度

講演会「シリアの文化財とその現状 2015」平成27年(2015年)3月

2015年3月18日(水)、当研究センターはシリア・アレッポ国立博物館前館長ユーセフ・カンジョウ氏をお招きし、講演会「シリアの文化財とその現状 2015」を行いました。

本講演では、2011年から続くシリアの動乱において、現地の文化財がどのような被害を受けているか、文化財の晒されている現状に対し政府はどのような対応をしているのか、文化財の保護活動がいかにして行われているか等、近年のシリアにおける文化財について詳細な話が、鮮明な写真や映像とともになされました。

講演後には質疑応答が行われ、破壊に晒され続けるシリアの文化財に各国はどのような対応をすべきか、日本は今後シリアに対し、文化財関係においてどのような協力を為すべきなのであろうかなど、熱い議論が行われ、イスラーム地域の文化財保護・修復に強い関心を持つ参加者にとって、大いに刺激を受けるものとなりました。

2014年度(後期)エジプト現地調査を実施平成27年(2015年)3月

2015年3月、当センターの吹田浩氏(エジプト学・エジプト社会グループ)、安室喜弘氏(科学技術グループ)、アフメド・シュエイブ氏(文化財修復グループ)、アーデル・アカリシュ氏(文化財修復グループ)が、エジプト、サッカラにて合同の現地調査を行いました。

今回の調査では、イドゥート、地下埋葬室内部の岩盤の強化のため薬剤実験を中心とした活動に取り組みました。カイロ大学にて実験の打合せを行い、サッカラで問題となっている脆弱な岩盤のため試薬を用いて、その効果を検証することができました。

また、サッカラ地域のセラペウムを訪問し、公開されている文化財に活用されている岩盤補強の例を実見しました。

公開シンポジウム「天空の古代都市『マチュピチュ遺跡』を護れ」を開催平成27年(2015年)2月-3月

2015年3月1日(日)に当センターは、公開シンポジウム「天空の古代都市『マチュピチュ遺跡』を護れ」を開催しました。ペルーからマチュピチュ遺跡保護管理の専門家、ピエダッド・チャンピ氏とグラディス・ファルパリマチ氏をお招きし、マチュピチュ遺跡に関する最新の研究成果の報告を行いました。

あわせて、当センターのメンバーを含む日本人研究者が現地での研究成果を発表し、その後、ペルーと日本の研究者によるパネルディスカッションが行われ、世界遺産マチュピチュの今後のあり方を巡って活発に議論しました。また、翌3月2日(月)には、当センターでマチュピチュ遺跡の研究会を開き、科学的な意見交換が行われました。


(1)ピエダッド・チャンピ(ペルー文化省)、グラディス・ファルパリマチ(ペルー文化省)、「マチュピチュ遺跡の歴史とその保護・活用」(逐次通訳)

(2)西浦忠輝(国士舘大学、当センターメンバー)、「太陽の神殿の保存修復に向けて:共同研究プロジェクトの成果」

(3)伊藤淳志(関西大学)、西形達明(関西大学)、「地震で崩壊?遺構の構造耐力を探る」

(4)森井順之(東京文化財研究所)、「聖地・マチュピチュ遺跡の気象環境」

(5)パネルディスカッション「より良い保存修復と活用:今後に向けて」
天野幸弘(元朝日新聞社)、ピエダッド・チャンピ、グラディス・ファルパリマチ、西浦忠輝、伊藤淳志、西形達明、岡田保良(国士舘大学)


なお、前日の2月28日(土)には同じく主催である国士舘大学においても、同シンポジウムが開かれています。

「文化財保存修復セミナー」の開催平成27年(2015年)2月-3月

当センターでは昨年度に引き続き、「文化財保存修復セミナー」を2015年2月22日(日)から3月1日(日)にかけて開催しました。文化財関係を学ぼうとする大学生や文化財保護に強い関心を持ち、学ぼうとする一般社会人の方々を対象に、既に現場で活躍している研究者や技術者など、一流の専門家を講師陣に迎えて講義が行われました。今年は、新たに簡単な実習も行われ、実践的なセミナーとなりました。

当センターからは、伊藤淳志氏(科学技術グループ)、沢田正昭氏(文化財修復グループ)、西浦忠輝氏(文化財修復グループ)、高鳥浩介氏(科学技術グループ)らが講義をしました。

最終日の3月1日には、8日間の全講義を終えた後、公開シンポジウム「天空の古代都市『マチュピチュ遺跡』を護れ」に参加しました。

 
セミナーの講義カリキュラム

2月22日(日)
「人類の歴史と文化財」西浦忠輝氏(国士舘大)
「国際協力」沢田正昭氏(当センター)
「文化財と自然科学」沢田正昭氏(当センター)

2月23日(月)
「美術工芸品(II)工芸」北村繁氏(漆工芸家)
「災害と救援活動」日高真吾氏(国立民族学博物館)
「紙と布」岡興造氏(岡墨光堂)
「文化遺産の保存と活用」平澤毅氏(奈良文化財研究所)

2月24日(火)
「社会と文化財」天野幸弘氏(元朝日新聞)
「基礎構造力学」伊藤淳志氏(関西大)
「木材」西浦忠輝氏(国士舘大)
「石材・レンガ」西浦忠輝氏(国士舘大)

2月25日(水)
「自然と文化財」西山要一氏(奈良大)
「考古遺物」増澤文武氏(NPO/JCP)
「文化財保護と行政」井上敏氏(桃山学院大)

2月26日(木)
「遺跡と文化財」上野邦一氏(奈良女子大)
「金属」桐野文良氏(東京藝術大)
「美術工芸品(I)絵画」園田直子氏(国立民族学博物館)

2月27日(金)
「民俗資料」伊達仁美氏(京都造形芸術大)
「文化財の生物劣化と対策」高鳥浩介氏(NPO法人カビ相談センター)
「収蔵ならびに展示環境」魚島純一氏(奈良大)
「博物館の役割」魚島純一氏(奈良大)

2月28日(土)
「世界遺産とユネスコの役割」西村康氏(ユネスコ・アジア文化センター)
「歴史資料」大林賢太郎氏(京都造形芸術大)
「実習」今津節生氏(九州国立博物館)

3月1日(日)
「実習」今津節生氏(九州国立博物館)
公開シンポジウム「天空の古代都市『マチュピチュ遺跡』を護れ」

エジプト人研究メンバーとの共同研究・打ち合わせ平成27年(2015年)1月-2月

2015年1月から2月にかけて、当センター研究メンバーのアフメド・シュエイブ氏(文化財修復グループ)、アーデル・アカリシュ氏(文化財修復グループ)、マイサ・マンスール氏(文化財修復グループ)、サラーハ・エル・ホーリ氏(エジプト学・エジプト社会グループ)が来学し、日本の研究メンバーとの共同研究・打ち合わせを行いました。

シュエイブ氏、アーデル氏、サラーハ氏は1月27日(火)、当センターにて行われた打ち合わせに参加しました。この打ち合わせでは、イドゥートのマスタバの岩盤の補強に使用する素材についての論議などが積極的になされ、今後のエジプト調査の具体的な方向性を決めることができました。

マイサ氏は、東京のカビ相談センターの高鳥浩介氏(科学技術グループ)、大阪府立大学の土戸哲明氏(科学技術グループ)のもとで、カビ分析の技術研究に取り組みました。

この研究・打ち合わせは、メンバーのエジプトでの調査の具体的な指針を決めるとともに、日本とエジプトの研究メンバーが意見を交換し、研究を深化させました。

「エジプト学、エジプト文化財の保存科学の集中講義」を実施平成27年(2015年)1月-2月

当研究センターでは、2015年1月28日(水)から2月5日(木)にかけて、当センター研究員のサラーハ・エル・ホーリ氏(エジプト学・エジプト社会グループ)、アフメド・シュエイブ氏(文化財修復グループ)、アーデル・アカリシュ氏(文化財修復グループ)が来日し、エジプト調査に向けての打ち合わせを行いました。それに伴い、関西大学の学生に向けた全7回のエジプト学、エジプト文化財の保存科学の集中講義が行われました。

サラーハ氏は古期・中期エジプト語、シュエイブ氏、アーデル氏は保存科学の講義を行いました。

古期エジプト語の講義では「ハルクフの自叙伝」、中期エジプト語の講義では「雄弁な農夫の物語」を使用し、それぞれヒエログリフの読解に取り組みました。講義を通して、学生は、各言語に特有の文法表現をより深く学習し、また、様々な文法解釈の議論が展開され、学生にとって新たな視点で文法を考えるきっかけとなりました。

シュエイブ氏は文化財の発掘方法や保存方法、また、その現状を解説し、アーデル氏は実際に文化財に使用される岩石やその種類、顔料の製法について詳しく講義を行いました。

すべて英語での講義のため、学生は飛び交う専門用語に苦労しながらも、繰り返し丁寧な解説を受けることで本場、カイロ大学の学問を体験することができました。今回の講義では、古代エジプト語の読解技術と文化財の発掘や保存修復に関する最新の知識を習得できたとともに、今後の研究への意欲を向上させることとなりました。また、当センターの研究メンバーとの交流も深めることができたため、学生にとって大変有意義なものとなりました。

関西大学大学院にて「文化財科学研究」(秋学期)を開講平成27年(2015年)1月

2015年1月28日(水)から1月30日(金)にかけて、関西大学大学院にて、当センター研究員の沢田正昭氏(文化財修復グループ)が集中講義「文化財科学研究」(秋学期)を行いました。 この講義は、文化財の保存修復に関する自然科学的な基礎知識を学び、保存修復の実例から、保存修復技術への応用についての理解を深めることを目的としています。

1月28日、29日の講義では、サッカラ、イドゥートのマスタバを含めた、沢田氏が携わる活動を通して、保存修復の実例を学びました。また、近年変化しつつある文化財への意識をテーマに、「文化財の保存と活用の在り方」について、院生との意見交換も行われました。

1月30日には、奈良県の平城宮跡、正倉院を訪問し、文化財の保存修復の実例を見学しました。正倉院正殿の見学では、現代まで引き継がれる建築当時の宝物保存に適した技術の使用例や、江戸時代の保存修復の跡を実見するなど、文化財の保存修復に対する院生の関心を拡げるものとなりました。

「中期エジプト語講座 初級」を開講平成26年(2014年)12月ー平成27年(2015年)1月

当研究センターでは、2014年12月13日(土)から2015年1月17日(土)にかけて、全4回の「中期エジプト語講座 初級」の集中講義を開講しました。当研究センター長の吹田浩氏(エジプト学・エジプト社会グループ)が講師を務め、中期エジプト語の基礎知識について講義を行いました。

この講義では、単語の読み方、区切り方、辞書の使い方から、古代エジプトの実際の文字資料に見られる文法の基礎までを集中的に学びました。この講座を通して、受講生は中期エジプト語の重要な文法の特徴を理解することができ、次年度に開講される「中期エジプト語講座 中級」に向けての充実した準備にもつながりました。

この講座は、中期エジプト語を初めて学ぶ人を対象に開かれたものですが、前年度の講座受講生を含めた、古代エジプトに関心を持つ幅広い世代の方々にご参加いただきました。

受講生には、全4回の講義を終えて、当研究センターより「中期エジプト語講座 初級」の修了証書が授与されました。

公開シンポジウム「文化財を伝える-日本の保存技術が古代文明の秘宝を救う」にて講演平成26年(2014年)12月

2014年12月14日(日)に国立民族学博物館で開催された公開シンポジウム「文化財を伝える-日本の保存技術が古代文明の秘宝を救う」にて、当研究センタ-長の吹田浩氏(エジプト学・エジプト社会グループ)が基調講演「エジプト文明の壁画を保存する」を行いました。

この講演では、当センターが行うサッカラ、イドゥートのマスタバ内部の壁画の保存修復活動が紹介されました。加えて、文化財の劣化や破壊に対する当事者意識の必要性や、エジプトで保存修復に取り組む上での現地の専門家との対等な関係を築くことの重要性についての話がなされました。

企業雑誌に掲載平成26年(2014年)12月

2014年9月に、浜本隆志氏(国際文化グループ)の日本史における宝飾文化に関する記事が企業文化誌『エプタ Vol. 68』(肌粧品科学開放研究所)に掲載されました。

(画像はヒノキ新薬(株)発行=「EPTA」(Vol. 68)特集「宝石への旅」より転載)

敦煌の国際シンポジウムに参加平成26年(2014年)10月

2014年10月8日に中国、敦煌で開催された国際シンポジウム、"Dunhuang Forum: International Symposium on Conservation of Ancient Sites on the Silk Road 2014"が開催されました。この国際シンポジウムには、当センターから多くの研究員が参加、発表を行いました。発表内容は以下の通りです。

Reinforcement of mother rock in Idout Tomb, Egypt
伊藤淳志氏(科学技術グループ)、西形達明氏(科学技術グル―プ)

Conservation of machu-pichu archaeological site - investigation and experimental restoration works of "Temple of the Sun"
西浦忠輝氏(文化財修復グループ)、柴田秀明氏、小野勇氏、沢田正昭氏(文化財修復グループ)、伊藤淳志氏(科学技術グループ)、西形達明氏(科学技術グループ)、藤田晴啓氏、森井順之氏、フェルナンド・アステーテ氏、カルロス・カノー氏

Conservation works of Idout's Tomb (2,360 B.C.) in Saqqara, Egypt
吹田浩氏(エジプト学・エジプト文化グループ)、アフメド・シュエイブ氏(文化財修復グループ)、アーデル・アカリシュ氏(文化財修復グループ)、沢田正昭氏(文化財修復グループ)、西浦忠輝氏(文化財修復グループ)、エヴァ・ロズネルスカ氏(文化財修復グループ)、安室喜弘氏(科学技術グループ)、松下亮介氏

また、文化財修復グループの西浦氏、沢田氏は、シンポジウムの進行役も務めました。このシンポジウムを通して、当センターの多くの研究者が、これまでの共同研究の成果を発信することができました。

2014年度(前期)エジプト現地調査を実施平成26年(2014年)9月

2014年9月、国際文化財・文化研究センター、エジプト学・エジプト社会グループの吹田浩氏、サラーハ・エル・ホーリ氏、岡絵理子氏、文化財修復グループのアフメド・シュエイブ氏、アーデル・アカリシュ氏、マイサ・マンスール氏、西浦忠輝氏、科学技術グループの伊藤淳志氏、安室喜弘氏が、エジプト、サッカラにて合同の現地調査を行いました。

今回の調査では、イドゥートのマスタバの岩盤調査、3次元計測を中心とした活動に取り組みました。また、遺跡だけでなく、サッカラ村の調査やカイロ大学考古学部への訪問も行いました。

特別講演「現在のエジプトにおける政治的動向と市民の生活」平成26年(2014年)9月28日

2014年9月28日(日)、関西大学国際文化財・文化研究センターにて、アル・アハラム新聞コラムニスト、元編集長(エジプト)、カマル・ガバラ氏による特別講演「現在のエジプトにおける政治的動向と市民の生活」が行われました。

この講演では、2011年1月の革命に始まる目まぐるしいエジプトの政治情勢の変化や、現在の政治的動向、エジプト政府の行政の方向性、そして、この状況下にある市民の生活についての詳細な話が、現地の記者によってなされました。 また、この講演には、エジプト大使館参事官、ジョセフ・ラメズ氏も参加されました。

なお、講演後は、関西大学の学生を中心とした、ガバラ氏、ジョセフ氏とのディスカッションが行われ、エジプトやイスラーム地域に強い関心を持つ学生にとって、大きく刺激を受けるものとなりました。

関西大学大学院にて「文化財科学研究」(春学期)を開講平成26年(2014年)7月―8月

2014年7月30日(水)から8月1日(金)にかけて、関西大学大学院にて、当センター研究員の沢田正昭氏(文化財修復グループ)が集中講義「文化財科学研究」(春学期)を行いました。 この講義では、文化財の保存修復に関する自然科学的な基礎知識を学び、保存修復の実例から、保存修復技術への応用についての理解を深めることを目的としています。

7月31日(木)の講義では、主に木材の保存修復に応用されるPEG含浸法で用いるポリエチレングリコールの効果を、実際の試料を用いた実験を通して学びました。

また、8月1日(火)には、大阪府立狭山池博物館を訪問し、日本最古のため池である狭山池から発掘された遺物や、堤の断面図などの保存修復の技術が応用された好例を実見し、文化財の保全に関心を持つ院生にとって大きな刺激となりました。

カイロ大学考古学部からの記念品を授与平成26年(2014年)4月

先日開催された、「エジプト学・文化財セミナー」に併せ、カイロ大学考古学部と当センターによる、相互の研究協力の推進のため、カイロ大学考古学部より記念品が贈与されました。この記念品は、今後の両機関における研究推進の象徴となります。