コラム

第13回 2013/10/31

オーストリア、「豊臣期大坂図屏風」調査

関西大学特別任用研究員
内田吉哉

オーストリア、「豊臣期大坂図屏風」調査

「豊臣期大坂図屏風」の前で

 2013年9月20日から27日にかけての約1週間、オーストリアに滞在した。目的はもちろんグラーツ市のエッゲンベルク城が所蔵する「豊臣期大坂図屏風」の調査である。ここ数年、この屏風絵の研究に参加させてもらっているが、実物を見たことがないというのは何とも中途半端なものである。今回、念願かなってエッゲンベルク城を訪問することができた。実物の「豊臣期大坂図屏風」を調査する最大の目的は、料紙や顔料の「風合い・質感」を確かめること、絵画の「色合い」を肉眼で見ることである。

 ある美術史家の方が講演をするとき、できるだけパワーポイントではなく、アナログな「スライド映写」を使うのだということを聞いた。日本絵画史の研究では世界トップクラスの方である。そこまでこだわる理由は、せめてスライドでないと屏風や障壁画に貼られた金箔の、柔らかい光の色合いや風合いを見せることができないからだという。

 「豊臣期大坂図屏風」の図様はこれまでにデジタル画像で何度も見てきた。どこに何が描かれているのか、ほとんどそらんじることができる。しかし風合いや質感は、実物を肉眼で見ないとどうしてもわからない。

 「豊臣期大坂図屏風」の研究に関わるようになって以来、この何年かにわたって、全国各地の洛中洛外図屏風を調査するために何度も出張させてもらっていた。「研究のためには類例の実物を多く見なければいけない」と、本研究センターの手厚い配慮を受けてのことである。今回のエッゲンベルク城訪問で目の前に「豊臣期大坂図屏風」を見、頭の中でこれまで調査した洛中洛外図屏風の色合いと比べあわせ、ようやく出張調査で積み上げてきたものを役立てることができたという思いである。

 ……と、美しく話を終わらせたいところであるが、とはいえ現在の能力では、その風合い・色合いを表現するには文章力が圧倒的に足りない。自分の頭の中で「こういう感じ」という手ざわりが再現できるだけである。そこで遅まきながら、ただいま永井荷風の『江戸芸術論』を読み、新たに勉強中の次第である。

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