第136冊 進展する情報社会への政府対応 (2004.3.31)

I 地域情報化20年の軌跡と今後の課題 高橋 徹 研究員
II 住基ネット導入問題に見られる若干の一般的論点
―基礎的視点の確立をめざして―
眞鍋俊二 研究員
III 電子署名の制度的諸問題 山本慶介 研究員
IV BSEに関する新聞報道と政府の対応 常木暎生 研究員
V 情報管理政策における集権と分権
―アメリカ2002年電子政府法の成立過程を事例として―
岡本哲和 研究員
VI シンガポールにおける情報通信及びIT投資事情 牧野路加 研究員
VII 住民基本台帳ネットワークシステムの法的問題 亀田健二 研究員

要約

今日情報政治制度は大きな行政問題であり、行政はその重要性を認識して、優れた制度を設計していかなければならない。しかし、問題の発生に対する行政対応はまだまだ不十分であり、それを克服するためには優れたネットワーク構築を制度の中核とすべきと考えられる。本双書では現在まさに論議されている問題を提起して、その分析とネットワーク構築への提言を試みたものである。具体的には、情報の地域間格差問題、住基ネット導入問題、電子署名の制度的諸問題、 BSE問題に関するメディアの対応、政府内の情報管理政策における権限問題、シンガポール政府の情報立国への進展状況を分析評価した。

情報の不十分な取り扱いによるディメリットが増加することが予想され、情報政策をめぐる研究は今後もさらにさまざまな分野で進展することと思われる。これらの研究が事後的な解釈に終わらずに、予防的な対策に資することを期待したい。

第135冊 情報管理の体系的研究II (2003.3.31)

I 電子商取引と信頼革 施 學昌 研究員
II グローバル化と加速する企業再編 北島 治 研究員
III 海爾集団の価値創造経営 水野一郎 研究員
IV 信楽焼ブランドのイノベーション 陶山計介 研究員
V e-Learningに期待される経済効果と教育現場における実際 柴田 一 研究員
VI 都市経営情報管理の構想
―システム思考応用編―
山内 昭 研究員
VII 環境ホルモンとISOの経営政策
―環境マネジメント―
阿辻茂夫 研究員

要約

前回の報告書(研究双書第126冊;2001年)に引き続く成果の集成である。われわれは、情報管理概念に関する従来の単純な理解を越えて、社会的システムにおける多様な情報流動現象のダイナミックな特性の把握を拠り所に情報社会科学の再構築を目指す共同研究を進めている。

本書では、社会レベルと組織レベルにおける情報管理研究として見通しのよい構成を企図した。すなわち最初に、情報ネットワーク社会の進展がもたらす、人と市場と組織の問題、および創造的な経営やイノベーションを生むに到る情報の役割・意味などについて経営学、会計学、商学の領域からアプローチしている。次に都市や教育という社会システムの問題を、操作可能を重視する場合の情報管理・経営情報管理の側面から、より具体的に論じた。最後に現代社会が生み出した環境問題に対して“学習”をキーワードに、組織論を基盤に迫っている。

第134冊 国際ビジネス問題の研究 (2003.3.31)

I 貿易取引における海上コンテナリゼーションの変遷 吉田友之 研究員
II 1990年代のアメリカ経済 羽鳥敬彦 研究員
III グローバリゼーションと日本の貿易に関する一考察 奥 和義 研究員
IV 事業進化とグローバリゼーション:分析フレーム構築の試み 小松陽一 研究員
V グローバル経済と国内野菜産地の対応 樫原正澄 研究員
VI アメリカの公認会計士監査制度 松本祥尚 研究員
VII 国際商事紛争とADR
―仲裁を中心に―
大貫雅晴 委嘱研究員

要約

本論では,国際ビジネスに係わる諸問題に対して各研究員が,国際経済関係論的観点から,国際貿易論的観点から,国際経営戦略論的観点から,国際会計論的観点から,農業経済学的観点から,国際商事紛争解決論的観点から,貿易商務論的観点からそれぞれアプローチした成果の一部を掲載した。

本研究班は,国際ビジネスから生じる諸問題を研究対象とするものの,極力研究テーマの縛りをなくし,自由な研究テーマの設定を可としたことで共同研究としてはまとまりが悪いと評されるかもしれない。しかし,上記の研究分野からみた国際ビジネス上の問題,その解決策,将来はどうなるのかといった事柄を明らかにできたのではないかと考える。

第133冊 21世紀高度情報化、グローバル化社会における人間・社会関係 (2003.3.31)

I 信頼感指標の構造 林 直保子 研究員
II 引退過程における生活納得度
―後期キャリア発達に関する心理学的研究―
川崎友嗣 研究員
III 若者における移動体通信メディアの利用と家族関係の変容
―「ケータイ」される家族関係のゆくえを探る―
辻 大介 研究員
IV 家族成員間協力の規定因に関する実証的検討
―「家族ユニット志向」概念の提起―
土肥伊都子 委嘱研究員
V 地域社会における高齢者の日常的な助け合い行動の実態解明とその心理・社会的効果の究明 髙木 修 研究員
妹尾香織 大学院委託学生
VI サービス業における規制的不確実性対応のための対政府関係性構築方法 廣田俊郎 研究員

要約

当研究班は、「21世紀の高度情報化、グローバル化社会における家庭や地域社会の人間関係」を共同研究テーマとして、少子・高齢化に加えて、高度情報化やグローバル化がさらに進展すると予測される21世紀の日本社会において、人間・社会関係のあり方がどのように変化していくのかを、人間関係の根幹となる家庭や地域社会に焦点を当て、そこにみられる関係の新しい機能や位置づけを模索しつつ、多面的視点から新たな人間・社会関係のあり方を総合的に解明することを目的とした。

本書は、班の共同テーマのもとに各研究員が設定した分担テーマで行った研究の成果をまとめたものである。章配列は、まず、人間・社会関係の根底を成す個人内の問題に関する研究 (I) から、家庭における関係問題に関する研究 (II, III, IV)、地域における関係問題に関する研究 (V)、そして、社会における関係問題に関する研究 (VI) の順になっている。

以上の成果は、各研究員が研究を通じて学会大会や学会誌等に論文投稿する形で公表しているものの一部であり、それらが21世紀の日本社会における人間関係の展望に寄与し、理想的な人間関係のあり方に関する指針となることを願っている。

第132冊 多元的経済社会の展開 (2003.3.31)

I 多元的経済社会のガバナンスと国家の役割 若森章孝 研究員
II 新しい「帝国」概念の有効性 植村邦彦 研究員
III ヘンリー・ジルー『境界を交差する―文化的労働者と教育の政治学―』を読む 赤尾勝己 研究員
IV コンドラチェフとオランダの学統 岡田光正 委嘱研究員
V ラテン・アメリカの地域経済統合とヨーロッパ連合 楠 貞義 研究員
VI 世界企業の経営戦略 井上昭一 研究員
VII 北朝鮮の新経済政策の動向について 李 英 和 研究員
VIII 中国内陸貧困農村における兼業化の進展と出稼ぎ 石田 浩 研究員

要約

研究双書『多元的経済社会の展開』には、「多元的経済社会の諸問題」を理論的かつ長期的視点から分析した4つの論文との複雑で多様な進展を実証的に研究した4つの論文、計8本の論文が収録されている。

第1論文(若森章孝)は、20世紀の最後の10年のあいだに本格化した「複雑さと知識の増進」こそがグローバリゼーションによる資本主義の制度的変化と資本主義自体の変化の根本的な要因であることを強調する。第2論文(植村 邦彦)は、ウォーラーステインの「近代世界システム」論に取って代わる新しい世界認識の概念として論じられている「帝国」論の最新の成果であり、大きな話題を呼んだマイケル・ハートとアントニオ・ネグリの共著『帝国』を取り上げ、その内容を紹介したうえで、その理論的な有効性について考えようとしたものである。第5論文(楠貞義)は、リージョナリズムのモデルケースでもあるEUと、ラテン・アメリカにおける新リージョナリズムの代表格メルコスール「南米南部共同市場」との間で展開されている通商/協力関係を明らかにする。第6論文(井上昭一)は、GMが部品事業部門を分離・独立させて分社化をなしとげ、グローバル・スタンダードの部品をGMのみならず、日米欧の完成車メーカーに対してもシステム・サプライヤー、モジュール・サプライイヤーとして事業展開していく過程をとりあげ、メガ・コンペティション(大競争)時代をリードし、企業変革に資する戦略展開過程を追求している。第7論文(李英和)は、朝鮮民主主義人民共和国において2002年7月1日付けで施行された新たな経済政策の背景、ねらい、結果を聞き取り調査などの資料に基づいて分析している。第8論文(石田浩)は、「世界の工場」としての中国の経済成長背景にある豊富で安価な労働力が内陸貧困農村から排出される実態を明らかにする。

第131冊 コンドラチェフ経済動学の体系 ―コンドラチェフの学術遺産と現代― (2003.3.31)

要約

ソヴィエト連邦の崩壊以降、スターリン政権のもとで弾圧・粛清された著名な農業経済学者、ニコライ・コンドラチェフの (1892–1938) の再評価と彼の学説の研究が、ロシアを中心に世界的な規模で進められている。本研究の課題は、有名な長期循環論を核としたコンドラチェフの未完の経済動学の体系を、最近相次いで復刊された著作(遺稿集を含めて)をベースに再検討し、彼が遺した学術遺産を新たな視点から再評価することによって、新しいコンドラチェフ像を提示することにある。

そこで、まず第一に、コンドラチェフの再評価の動向と彼の経歴・業績の紹介、第二に、オランダ学派とコンドラチェフの長期波動論(およびそれをめぐる論争)の多面的な視点からの再検討が行われ、第三に、欧米の著名な経済学者との学術的交流を通じた、欧米の経済思想、とりわけ景気変動論に及ぼした彼のさまざまな影響が考察される。そして第四に、遺稿集などの公刊によって、長期循環についての彼の統計的研究の基礎には、「確率論的-統計学的」アプローチと呼ばれる方法論的立場があり、そこではとくに確率や不確実性の問題が重要視されていたことが明らかになっているが、本研究では、この「確率論的-統計学的」アプローチについて考察し、コンドラチェフの長期循環論も、実は、彼のこうした方法論的見地に照らして再考する必要が生じていることを明らかにする。こうした作業はまた、新しいコンドラチェフ像を発掘し復現する理論敵営為(文字どおりコンドラチェフ復権の作業)と不可分に結びついているのである。

第130冊 関西新世紀II ―大阪再生戦略の検証― (2003.3.31)

I 関西地域産業の情報戦略 (2) 野口 宏 研究員
II 大阪の商業の活性化
―流通政策の転換の影響―
津田盛之 委嘱研究員
III 航空企業のアライアンス戦略と国際ハブ空港の経営 高橋 望 研究員
IV 循環型社会におけるライフスタイルと製品づくり 和田安彦 研究員
V 大阪オリンピック招致と都市デモクラシー
―「敗北」と「活性化」の政治過程―
小西秀樹 研究員
VI インターネット上の有害情報規制
―大阪府青少年健全育成条例の改正―
園田 寿 研究員
VII 地方自治体の外国籍住民施策について
―関西活性化に向けて―
池田敏雄 研究員

要約

本研究双書は、大阪問題研究班が2001年3月に刊行した『関西新世紀T―大阪再生戦略の検証―』の続編に当り、各研究員が後期2ヵ年間の研究を踏まえた「21世紀に向けた関西活性化にかかる多角的研究」のいわば集大成として執筆した7編の論考により構成されている。

いずれの論考も、関西圏の経済社会動向を現状認識し、関西圏がその潜在的なポテンシャルを地域アドバンテージとして生かし、現下の社会経済環境の変化に対応して活性化するための方策を提言している。

第129冊 中国内陸農村の貧困構造と労働移動 (2003.3.31)

要約

本書は、世界が注目する中国経済の裏側、つまり開発が進む沿海大都市を支える安価な労働量の供給源である内陸貧困農村の実態を農村調査を通じて具体的に解明した研究書である。周知のように、近年、沿海大都市の経済発展は目を見張るが、その一方で内陸農村との貧富の格差は拡大しており、沿海大都市は中進国水準まで経済成長を遂げている。しかし、その背景には中国国内にベトナムやカンボジア・ビルマなどのような低開発途上国が存在することで、つまり低賃金労働力が存在することで価格競争に勝ち抜き、メイド・イン・チャイナが世界を席巻するようになった。言い換えれば、内陸農民は現金収入を求めて沿海大都市に出稼ぎに行かなければならないという貧困という現実が歴然と存在している。本書は、そのような内陸農村で長期にわたり実態調査を行い、その歴史的構造的貧困について分析し、毛沢東の50数年間の「赤い革命」では農村の貧困問題を解決できなかったことを明らかにした。