関西大学 大学院インフォメーション2019
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02未来を問い、そして挑戦する。公共交通を見直し地域再生へ● 今、日本は高齢化が急速に進んでいます。特に地方圏の移動は、大部分、自家用車によって支えられています。しかし、歳をとると必ず運転できなくなる時が訪れます。戦後のモータリゼーションによる社会は転換期に差し掛かっており、これから先の社会がどうあれば幸せなのかを考える必要があるのです。自動車交通は、環境問題の観点からも早急な見直しを迫られています。一方、地方圏では経営難により鉄道やバスが次々と廃止され、住民の足が無くなっています。けれども、人口減少が進むこれからの時代、新たな投資をしても回収できません。しかも、道路整備が進められて街がどんどん郊外に拡散する一方、中心市街地が寂れたため、公共交通はますます利用されなくなりました。● 海外も自動車社会ですが、公共交通の計画が都市政策と一体で行われ、特に、人口10万人以上の都市では、LRT(次世代型路面電車)を基幹とした公共交通網が整備されてきました。そのメリットとして、まず、路面電車はバスよりもゆったり、鉄道よりもコンパクトな中量輸送機関としての役割を果たしています。特に新しい車両は、完全バリアフリーで高齢者や車椅子、ベビーカーでも乗りやすく、また、LRTではバスなど他の交通機関との接続にも配慮するなど利便性を重視しているので、人の動きを大きく変える効果があります。設備導入にあたるコストも地下鉄やモノレールよりも圧倒的に安く、線路という軸があるため、日常的に利用しない人や観光客にも分かりやすい。災害時の復旧も早いです。そのほか、海外では車両や電停自体を街のランドマーク、アートとしてデザインし、魅力的な景観のまちづくりにも活用されています。 一方、日本で導入が進まない主な理由は3つあります。1つ目は、車社会だから仕方ないという発想で、これは先述の通り、運転できなくなってからのことを考えるべきです。2つ目は、線路が邪魔になり、渋滞する車線がさらに混むと思われているから。しかし、車は100台で大渋滞しますが、100人なら路面電車1両に乗れ、逆に渋滞を減らすのです。3つ目は、「採算が取れない」という反論ですが、それこそがガラパゴス的な考え方で、海外では、交通事業単体で収支を判断せず、鉄道を道路と同じように社会インフラとみなしています。アメリカの路面電車には、商店街を無料で走るところもあります。例えば、百貨店のエレベータは電気代もかかりメンテナンスも必要ですが、利用料金を徴収していません。街の商店街も同じで、その間を移動する公共交通がそれ自身で収益を上げなくても、多くの人が訪れ、街が活性化すれば、都市経営は成功します。● 日本での成功例として、富山市が最も注目されています。2006年、赤字で廃止寸前だったローカル線・JR富山港線を、路面電車化して「富山ライトレール」を開業しました。車両も駅もすべてバリアフリーで、運行頻度も従来の1時間間隔から15分間隔に増便し、バス路線ともうまく接続させ、トータルな交通システムを構築したのです。交通に投資し、人々を沿線に引き寄せてコンパクトシティ化しなければ、街はどんどん広がって余計なコストがかさむという判断でした。結果的に富山市の中心市街地の地価下落に歯止めがかかり、税収も増え、交通事業は赤字でも、都市全体でみると儲けがあったわけです。これにより、富山ライトレールの利用者は、以前に比べて2倍以上、休日は3倍以上になりました。そのうちの1割は、かつて車を使っていた人達で、2割は外出していなかった主に中高年齢層の人たちです。以前は21時台だった終電も23時過ぎになり、富山駅近くのコンサートホールでは、幕間にワインなどを飲むおしゃれな人達の姿が増えました。活動の選択肢が増えたということです。 公共交通を通じて人と人とのつながり、「絆」ができれば、高齢社会になってもお互いに助け合うことができます。また、高齢者が街へ出ることは健康にも良く、医療費や介護費の節約につながる可能性も高い。お金には換算できませんが、社会の幸せ度は上がったと言えるでしょう。● 地域鉄道に関して言えば、日本も海外で普及している「上下分離」の導入が必要だと思います。これは、線路や駅などのインフラ部分は公的資金で建設・維持管理を行い、線路の上を走る車両の運行は民間企業が担い、一定の線路使用料を支払うという手法。2009年にできた富山の路面電車の新線にも採用されました。 交通は身近なだけに、水や空気のような存在です。けれども、時代が変化する中で、さまざまな問題が発生します。一方、そうした問題を克服してきた事例も数多くあります。交通問題をしっかり解明して、社会全体を良くしていくことが、研究者としての役目だと思っています。 私達の身体は大動脈だけあっても動かず、毛細血管を含む全体で機能して初めて元気に動きます。私がもどかしく思うのは、新幹線のような大動脈は注目されやすいのですが、本来、元気になれるはずの街で地域の公共交通が十分に生かされていないこと。各地のNPOの方たちとも連携しながら、地方が元気になるまちづくりに注力していきます。再考すべき日本の交通システム人にも環境にも優しい路面電車路面電車の導入で、 人々の生活が変わった日本全体が元気になるまちづくりを経済学研究科 経済学専攻宇都宮 浄人 教授1984年京都大学経済学部卒業後、27年間日本銀行に勤務。その間、経済企画庁調査局や一橋大学経済研究所出向。2011年度本学経済学に着任。研究分野は交通経済学、経済統計学、経済政策論。第29回(2004年)、第38回(2013年)、第41回(2016年)交通図書賞受賞。経済学修士(マンチェスター大学)。Utsunomiya Kiyohito◆研究室紹介高齢化、地球温暖化といった問題に直面する中、交通のあり方は、これからのまちづくり、観光、産業など地域経済の活性化を考えるうえで、重要な論点になります。特に、公共交通については、自家用車の普及や人口減少といった状況の下、事業者の採算の悪化からさまざまな問題に直面しています。一方、海外からの訪日観光客の誘致など、新たな地域活性化も期待されます。宇都宮研究室では、経済学の考え方と統計データに基づき、交通の問題を中心に、これからの地域の課題、日本の課題を考えていきます。

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