【関大社会安全学部 リレーコラム】誰もが選択できる防災を

トルコ・シリア大地震は発生から10日以上が経過し、両国当局はこれまでに4万人以上が死亡したと発表しています(17日現在)。

そして、必死の捜索、救助活動はまだまだ続けられています。一日でも早くすべての行方不明者が見つけ出されることを願わずにはいられません。
さて、地震災害による死者を減らすためには建物倒壊による犠牲を減らすことが最も重要です。平成7年阪神大震災では、犠牲者の8割以上が地震発生直後に亡くなったとされています。そして、その死因のほとんどが建物倒壊に伴う窒息や圧死です。
日本では昭和56年に導入された耐震基準によって、それ以前の建物と比べて飛躍的に耐震性が高まりました。例えば、震度6強の揺れの場合、1970年代に建てられた木造家屋であれば最大で50%の建物が全壊するのに対して、80年代の木造家屋になると15%程度にまで低下します。
さらに、年代が進めば、この割合は5%を切るまでに改善します。しかし、新しい耐震基準を導入したからといって、その恩恵が即座に日本に住むすべての人々に行き渡るわけではありません。平成7年の地震発生当時は、新耐震基準が導入されて14年しか経過しておらず、多くの住民が旧耐震基準の建物に住んでいました。40年以上経過した現在でもまだ旧耐震基準の建物が700万棟近く残っており、そのような木造家屋に住んでいる方も多くおられます。
政府は令和12(2030)年までにこれをゼロにする目標を掲げています。しかし、地震は私たちの都合に合わせて待ってはくれません。70歳、80歳になって住んでいる家屋を耐震化したり、新築家屋を購入したりできる人は限られています。
高齢になってから住み慣れた住まいを離れることは容易ではありませんが、買い物のしやすさや通院のしやすさ、子供世帯との近接した暮らしを念頭に引っ越すことを検討している人々はいるはずです。そのような人々を支援する仕組みを充実させるなど、私たちは今こそ知恵を出し合い、少しでも多くの人々が選択できる支援やサービスを充実させるべきではないでしょうか。
こうして生まれた成功事例は国内のみならず、世界中の地震多発国で歓迎されるものであり、国際社会において日本が果たすべき役割だと思います。
(関西大学社会安全学部教授 奥村与志弘)(2023-02-20・大阪夕刊・国際・3社掲載)