【関大社会安全学部 リレーコラム】理想プランと非常プラン

新しい年を迎え、令和5年は大きな災害がない年になることを切に願っています。国土交通省によると、4年の土砂災害の発生件数は788件(4年12月21日時点)で、過去最多の3459件を記録した平成30年以降、令和元年の1996件、2年の1319件、3年の972件と比較すると少ない年でした。
しかし、8月から9月は平年を上回る土砂災害が発生し、特に「8月3日からの大雨」では、全国各地36のアメダス観測地点で1時間降水量が観測史上最多となり、土砂災害が局所的かつ集中的に発生しました。
このような短時間強雨を「局地的大雨」と呼びます(「ゲリラ豪雨」という表現もよく目にしますが、正式な気象用語ではありません)。近年、気象レーダーの高精度化に伴い、気象予測の精度も著しく向上しています。
しかし、「局地的大雨」をピンポイントの予測することは依然として難しく、いつも適切なタイミングでピンポイントに防災気象情報や避難に関する情報を発出できるとは限りません。
このような場合、受け取った防災気象情報や避難に関する情報に基づいて、各自がとる標準的な防災行動をあらかじめ時系列で整理しておく「マイ・タイムライン」や、避難するためにあらかじめ設定した各自の判断基準「避難スイッチ」を駆動するまでもなく、気がつけば「記録的短時間大雨情報」が発表され、周辺が冠水するなど避難が困難な状況になっているということもありえます。
ゆえに今後は、各自で日常から「マイ・タイムライン」や「避難スイッチ」を検討して「理想的な」行動計画を立てることとあわせて、その計画を実行できない非常時の「非常プラン」についても検討しておくことが重要です。
この場合、「理想的な」行動計画を阻害する要因を考えておくことが、「非常プラン」への切り替えのポイントになるでしょう。

(関西大学社会安全学部教授 小山倫史)(2023-01-16・大阪夕刊・国際・3社掲載)