【関大社会安全学部 リレーコラム】平和な世界で防災協力を

ペロシ米下院議長の台湾訪問で、国際情勢がきな臭くなってきました。台湾にはおよそ10年前まで、原則18歳以上の全男子に約1年の兵役義務があり、学業を途中で休止して兵役に就く学生がいました。現在の義務は4カ月の軍事訓練になりましたが、実際に有事になればどうなるか。台湾の大学で授業をしたこともある私は、大変心配です。
国際共同プロジェクトで、台湾の大学と中国の大学の両方の先生とともに活動したこともあります。地震工学の研究ですが、彼らは仲良くやっていました。学問的な興味に共通点があるだけでなく、防災を通じて人類全体に貢献できるという共通認識を有していることも、仲良く活動できる理由の一つだと思います。
そして、日本や台湾、中国だけでなく、米国、英国なども含めた国・地域間での活動は非常に面白く、有意義でした。オンライン会議の普及でこのような国際的な活動が技術的に容易になってきているのに、国際情勢の悪化で協力できなくなることがあればとても残念です。
もちろん、軍事関係の研究であれば国際的な研究協力はなかなかできません。そして、民生技術と軍事技術の境界線は大変曖昧になってきています。例えば、ドローンも災害時の状況把握に使えば平和的利用ですが、爆弾を積んで飛ばすと最悪の兵器の一つです。
しかし、本来の学問は市民の生活を豊かにするためのものです。実際、土木工学は英語で「シビル・エンジニアリング」といい、直訳すると「市民工学」です。国際情勢が改善され、さまざまな民生技術を兵器として使う人や機会がなくなれば、防災分野も含めて国際的な技術協力はもっと進むと思います。早くそのような日が来ることを願っています。
(関西大学社会安全学部教授 一井康二)(2022-08-15・大阪夕刊・国際・3社掲載)