【関大社会安全学部 リレーコラム】災害に強く生まれ変わる

私たちの体の細胞は常に少しずつ入れ替わっています。完全に入れ替わるのに要する日数は体の部位によって大きく異なり、表皮は1カ月、血液は4カ月、骨は2年なのだそうです。胃腸や心臓の方が早く入れ替わるそうで、それぞれ1週間、3週間というのはそれだけ酷使されている部位であるということでしょうか。
私は防災学者です。どのような話であっても防災・減災の問題に寄せて捉えようとしてしまうのは一種の職業病かもしれません。この体細胞の話も防災の問題と重ねて考え込んでしまいました。
私たちが生きている社会を構成するものも、体細胞と同じように日々、少しずつ入れ替わっています。完全に入れ替わるのに要する時間は私たちの買い替えサイクルや構造物のライフサイクルなどによって大きく異なります。個人差もあるでしょうが、たとえばシャンプーや歯磨き粉であれば数週間、下着や靴下であれば数カ月、スマートフォンであれば2年、テレビやエアコンなどの家電、また自動車であれば10年といったところでしょうか。
一般的な木造家屋や高速道路などの土木構造物は50年から100年という歳月をかけて入れ替わります。私たちの社会も体細胞と同じように、完全に入れ替わるのに要する日数はものによって大きく異なります。
他方で、社会を構成するものは以前よりも良いものに入れ替えることができるのに対して、体細胞は老化に伴い少しずつ劣化した細胞に入れ替えをせざるを得ないのは生き物の宿命です。
耐震基準の改正によって昭和56(1981)年以降は揺れに強い建物が建ち始めましたが、そのような建物に完全に入れ替わるには50年近くかかります。つまり、令和12(2030)年頃ということです。他方で、災害時に非常用電源として活用できる電気自動車や災害時に有用な機能を備えたスマホなどはもっと短期間で完全に置き換えることができます。
ちょうど今から4年前、大阪北部地震と西日本豪雨が発生しました。どれだけのものが災害時に有用なものに入れ替わり、以前よりも災害に強い社会へと生まれ変わっているのでしょうか。生物である私たちの体ではできない、社会の強みが生かしきれていないように思えてなりません。
(関西大学社会安全学部教授 奥村与志弘)(2022-06-20・大阪夕刊・国際・3社掲載)