【関大社会安全学部 リレーコラム】予防保全としてのPCR検査

「予防保全」という用語があります。何らかの大きな事象が発生してから事後的に何か対策を立てるというのではなく、日常から予防的に点検や監視をして、大きな事象が発生する前に日常とは異なる小さな異変を早期に察知し対処することをいいます。この「予防保全」においては、日常から計測・モニタリングを行うことでデータを蓄積し、分析すること、つまり、「何も異変は生じていない」ということを科学的データで確認をしていく作業が重要となります。
豪雨時に「うちの裏山は大丈夫か」という不安を少しでも解消するために、斜面計測・モニタリングに取り組んでいますが、この「予防保全」的な計測・モニタリングの考え方は必ずしも十分に浸透しているとはいえません。これは、「何も発生していないということを計測することに意味があるのか」というそもそもの問いもありますが、日常的に行う計測・モニタリングにかかる費用や労力の大きさが最大のボトルネックになっているように思います。
新型コロナウイルスの感染拡大により、社会が大きく混乱するとともに、緊急事態宣言が発令されるなど、さまざまな制約を受ける生活が始まり、1年以上が経過します。新型コロナウイルスが厄介なのは、無症状の人から感染が広がってしまうということであり、「自分もかかっているかもしれない」、「症状はないけれど人にうつしてしまうのではないか」という不安感が社会の根底にある限り、これまで通りの日常生活を取り戻すことは困難であると思います。
無症状の人にも積極的にPCR検査を「予防保全的」に実施することが、この不安感を完全には払拭できないにせよ、緩和する方法として有効なのではないかと思います。もちろん、斜面計測と同様に検査精度の問題や実施にかかる費用・労力の問題は乗り越えるべき壁であるといえます。
(関西大学社会安全学部教授 小山倫史)(2021-02-15・大阪夕刊・夕刊特集掲載)