災害によるストレス反応―支援者支援について

2024年4月4日現在
関西大学 社会安全学部 教授 廣川空美

 2024年1月1日に発生した石川県能登半島地震から3カ月が過ぎましたが、避難者数も7500人を数え、断水が続いている戸数が約6700戸(内閣府, 2024年4月2日現在)、道路やインフラの復旧の遅れが指摘されています。
 被災者への支援ボランティアとして登録されている数は3万人を超えているそうですが、現地の受け入れ態勢が整っていないなどの理由から、実際に活動したのはまだ1万人ほどであることが報道されています(産経新聞, 2024年3月30日)。
 多くの大学など教育機関では2月末ごろから3月末までの約1カ月間は春休みであり、本学の学生もボランティア活動や、被災地での支援活動に参加していました。石川県のボランティアバンクを通じて参加した者、被災地調査・研究として参加した者、活動内容も様々であったようです。
 被災された方々の復興支援のために被災地に向かう、学生たちの熱意と誠意に対して、我々社会安全学部の教員も何かできないものかと考え、2024年4月2日『学生ボランティア情報交換会』を開催しました(写真参照)。参加者は大学院生・学部生23名、教員8名でした。すでに被災地での活動経験のある学生もいれば、これから活動したいという意欲のある学生もいました。学生と教員が5つのグループに分かれ、経験者から活動内容の概要や、活動を行って良かった事、課題だと感じた事を話してもらいました。また、今後活動を検討している学生からは、ボランティア活動に参加する具体的な方法や、活動上の注意点、不安に思うことなどが質問されました。情報交換会のまとめは活動報告を参照ください(https://www.kansai-u.ac.jp/Fc_ss/news/entry/2024-04-02_post_374.html)。
 情報交換会が終了し、参加者の学生、教員から「参加して良かった」「自分の思いを言語化することができた」というフィードバックをもらいました。被災地域に行き、被災者への支援を行う学生にとっては、現地での実体験による学びがある一方、災害の惨事ストレスや、日常とは異なる生活、業務内容や支援対象者とのコミュニケーションなど様々な不安、心身のストレスにさらされます。災害時には、支援者もメンタルヘルス上の問題を抱えることが知られています(矢島, 2019; Thormar et al., 2010)。特に、18~30歳の若者中心で、長期間の休暇が得られる大学生が多いボランティア活動の場合、警察や消防、医療従事者のような組織を通じたネットワークを持たず、事前情報もないまま被災地域に行き、短期間活動をして帰ることになります。戻ってきても家族や大学などで体験を共有することができず、ストレスからの回復が遅れるとの指摘があります(Thormar et al., 2010)。被災地で活動を行ったボランティアに見られるPTSDやメンタルヘルス上の問題の発生は、警察や消防、医療従事者のような専門職の支援者よりも高いことも示されています(Thormar et al., 2010)。
 ボランティア活動など被災地域での支援活動に向かう学生に対しての”支援”の必要性を感じています。災害支援者を支援する原則としては、正確な情報収集、適切な休養、早期の問題認識、適切な援助希求の4つが挙げられています(矢島, 2019; 高橋, 2018)。日本赤十字社の『ボランティア ご安全に!』(https://www.jrc.or.jp/volunteer-and-youth/volunteer/news/pdf/20220623-abb4a5e172e341a2c85d3085f70139b5a8388f35.pdf)は、ボランティア活動に行く前に読んでおかれることをお勧めします。
 支援者支援として疲労への対処には、リラクセーションなど自身でのセルフケアが重要です(元吉, 2017)。しかし、セルフケアにも限界があることから、支援者への事前の情報共有や支援体験の共有(デブリーフィング)の必要性が挙げられています(矢島, 2019)。今回行った学生の情報交換会は、支援者同士の体験の共有となり、今後支援に向かう者にとっては事前の情報共有として、災害支援のノウハウの提供となったのではないでしょうか。
 支援者が支援によって感じたストレスを肯定的にとらえることで、心的外傷後成長(Post-Traumatic Growth: PTG)につながることが示されています(矢島, 2019; 飯村, 2016)。学生のボランティア活動など被災者支援が彼らのPTGにつながるよう、我々も研鑽を積んでいかなければならないと、実感した情報交換会でした。
【発起人】奥村与志弘,菅磨志保,河野和宏,廣川空美
(文責)廣川空美
【引用文献】
飯村周平 (2016) 心的外傷後成長の考え方:人生の危機とポジティブな心理的変容 ストレスマネジメント研究, 12(1), 54-65.
内閣府 (2024) 令和6年能登半島地震による被害状況等について(令和6年4月2日14:00現在)
https://www.bousai.go.jp/updates/r60101notojishin/r60101notojishin/pdf/r60101notojishin_39.pdf (2024.4.4)
日本赤十字社 (2022) 『ボランティア ご安全に!』
https://www.jrc.or.jp/volunteer-and-youth/volunteer/news/pdf/20220623-abb4a5e172e341a2c85d3085f70139b5a8388f35.pdf(2024.4.4)
元吉忠寛・新潟県精神保健福祉協会 (2017) 『広域避難者支援マニュアル より丁寧な支援活動を目指して』
http://www2.ipcku.kansai-u.ac.jp/~motoyosi/pdf/lsa_manual.pdf (2024.4.4)
高橋晶 (2018) 災害支援者支援 東京:日本評論社
Thormar SB, et al. (2010) The mental health impact of volunteering in a disaster setting: a review. J Nerv Ment Dis., 198(8), 529-538.
矢島潤平 (2019) 災害発生後の支援者支援における心理職の役割 ストレス科学, 33(4), 322-330.

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