災害によるストレス反応―不眠について

2024年1月25日現在
関西大学 社会安全学部 教授 廣川空美

  突然に起こった災害により、私たちのこころや身体はさまざまな反応を起こします。今回の石川県能登半島地震による災害の影響により、被災された多くの方々が不安やストレスを感じていることと思います。さらに、普段の生活環境とは異なる避難所では、十分に休息をとることができず、不眠や睡眠障がいが起こりやすくなります。我が国で行った過去の震災後の避難所調査の結果(Kato et al., 1996; 高橋, 2016)によると、発災の3週間後に60歳未満では58%、60歳以上では68%の方が、入眠困難や中途覚醒などの睡眠障がいの症状を訴えられていたことが示されています。
 避難所の生活は、床の上での就寝を余儀なくされ、温度管理もままならず、プライバシーのない環境にさらされるため、安心して休息をとることができない状況です。こういった不眠や睡眠障がいが長引くと、抑うつ感などの精神症状や、高血圧などの身体症状にもつながってくることが懸念されます。
 気分を改善するために、カフェインの多く入っている飲料を摂取される方もいるかもしれません。しかし、多量に摂取すると脈拍数が増加し、動悸、不安感が生じて、さらに不眠になる危険性があります。カフェインの取りすぎには注意してください。
 また、睡眠を改善するために、アルコールを飲まれる方もいるかもしれませんが、逆に眠りが浅くなったり、途中で目が覚めたり、夜トイレに行きたくなったりします。睡眠に不満がある方にとって飲酒は逆効果になります。
 睡眠改善の方法については、リラクセーションや軽い運動や体操がお勧めです。特に、呼吸法は短時間で、少しの場所で、座っていても寝ていてもできるリラクセーション方法になります。もし、眠れずにイライラが続いている、気分が落ち込んでやる気が起こらないという方は、早めに医師や医療従事者の方に相談しましょう。
 『やってみよう!睡眠改善』のテキストの一部を公開していますので、参考にしてください。2012年度~2014年度の科学研究費助成金(代表廣川空美)「性差と加齢を考慮した労働者の睡眠の質改善のためのセルフケア・プログラムの開発」の結果に基づき、睡眠の質を改善するための腹式呼吸法、筋弛緩訓練法、ストレッチ運動の方法も動画で提供しています。
【やってみよう!睡眠改善】
ロコラク体操、腹式呼吸法、筋弛緩法
【引用文献】 Kato H. et al. (1996) Post-traumatic symptoms among younger and elderly evacuees in the early stages following the 1995 Hanshin-Awaji earthquake in Japan. Acta Psychiatr Scand 93, 477-481. 高橋晶 (2016) 避難所における抑うつ・不安および睡眠障害とその対策. Depression Stragegy, 6(4), 13-16.