関西大学 社会学部
Professor's Columns

第14回2005年2月18日

精神的に健康な人とは

産業心理学専攻  遠藤 由美 教授

 精神的に健康な人とはどのような人だろうか。心理学はこれまで主として精神的不健康に焦点を当て、健康は不健康の補集合としてとらえてきた。しかし、「精神的健康」それ自体を考えることも、重要なテーマのひとつである。だが、統一的見解はまだない。

 ある立場に立つ人たちは「自己客観視」をその基準として挙げている。精神的に成熟している人は、良い点も悪い点も含めて、自分の姿をありのまま正確にとらえることができる、というわけである。確かに自分が飛べるのは1mだということを知らずに、2mの川を飛び越えようとすると悲惨なことになる。ライオンに出くわしてしまったら「このくらい怖くはないぞ、僕の方が強い」と思っても、無駄である。まず自分を正確に知ることが世の中をうまく生きていくための条件だと考える人は多い。
 ところが最近、これとは逆の主張があらわれてきた。精神的に健康な人は、自分を都合のよい方向に歪めてとらえている、というのである。小さい子がお互いに自慢しあっている姿はほほえましいが、大人もまったく同様に、自分の力を誇大視する。それによって、自信を得、やればできると前向きに対処でき、何事にも積極的になれる。第一、何より気分がいい。反対に自分を正確に見つめるのは落ち込みや憂うつな気分につながり、不健康だとこの立場の研究者は述べている。

 さて、世の中にはいろいろな人がいる。自分のマイナス面ばかりを数え立てている人には自己誇大視を教えてあげたくなる。反対に、自分の正しさを信じて露ほども疑わない人には自己客観視をすすめたくなる。どうも、私の中には根っからの天邪鬼が住み着いているらしい。

『葦』No.129 2004年秋冬号より転載

産業心理学専攻

遠藤 由美 教授
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