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関西大学政策創造学部
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vol.17「大学における「学び」とは何か」column by 橋本行史教授
 毎年、4回生の最終ゼミを終わる段階になると、ゼミ生の就職希望先への内定状況をみながら、今年担当した学生は上手に育ったかどうかを自問自答することになる。就職指導は教員の本来的な用務とはいえないが、メディアが最近伝えるように大卒者の内定率が全国平均で6割程度までに下がると、無関心でもいられなくなる。大学卒業が必ずしも一般社会への就職パスポートと言えなくなった今、大学において「学ぶ」ことの意味は何か、あるいは、大学教育の役割とは何かを改めて考えてみよう。
 私が所属する政策創造学部には公務員志望の学生が多い。自分の進路について明確なビジョンを描いて当初から公務員になると決めて学部に入ってきた学生ばかりではなく、不安定な経済環境のなかで公務員が安定しているように見えるからと周囲に勧められて入学したという学生もいる。また、必ずしも公務員とは限らずとも、疲弊・衰退が進む出身地の地域振興に何等かの形で役立ちたいという前向きな気持ちを持った学生もいる。そんな多様な学生を抱えつつ、個々の学生の特徴をよく知り、それぞれの可能性を信じて指導することになる。
 残念ながら、社会情勢の変化によって、公務員、民間を問わず、就職について必ずしも全員の希望が叶う時代ではなくなっている。そんななか、大学よりもアルバイト先の方が役に立つことを学べると主調する学生もでてくる。雇用が厳しくなると、実際の仕事に関わるアルバイトの方が大学教育よりもより実践的なことが学べ、就職にも有益ではないかと考えるからである。実際、「学び」の場は大学に限られないし、アルバイト先によっては、勤務のルールやマナー、対人関係の指導をしてくれるところもある。これに対して、大学教育として提供される学問のうち、そのまま実務に直結するものはそう多くないのも事実である。
 一見筋が通っているように見えるこの学生の主張も実は正しくない。確かに大学卒業が持つ就職パスポート機能の弱まりは否定できないし、そもそも大学が人生を豊かに導く唯一の道でもない。実際、社会の成功者が必ずしも高等教育を受けている訳ではなく、世界の実業界における最高の成功者の一人とされるアップルコンピュータの共同創立者スティーブ・ジョブズさえも、折角入学した大学をわずか半年で退学している。
 しかしながら、彼が中退後も大学周辺に留まって、そこで得られた知識やアイデアを基にして起業したことは広く知られている。肝心なことは、大学であれ実社会であれ、「学ぶ」ことによって、変化の激しい時代に見合った社会人としての適応力、社会での「生きる力」をどのように身に付けるかにある。
「学び」の構造を考えてみよう。手元にある阿部吉雄編の旺文社漢和辞典によれば「学ぶ」の旧字体である「學」は「子供が儀礼・作法をまねらう意、ひいて、まなぶ意となった」としている。つまり、元来の「学ぶ」の意味は、ただ一方的に知識を仕入れる作業ではなく、何等かの行動に移ることを前提にして知識を仕入れることである。
 しかるに、現代の知識の高度化・専門化は、「学び」の手段である「知る」だけを自己目的化してしまう傾向がある。「学ぶ」ことの元来の意味を考えれば、一定の知識を受動的に得る「知る」だけでなく、(次の行動に移すために)知り得た知識を基にして「考える」意味を付加して理解する必要がある。ここで「考える」とは、知り得た知識をベースにして理解を深め、自分の考えを形成することである。もっとも、自分の考えが必ずしも社会に通用するとは限らない。そんな場合は、再び「知る」「考える」を繰り返せばよいのである。
 このような「知る」の外に「考える」を加えた「学び」は、単純化された労働に従事することの多いアルバイトや忙しい実社会ではなかなか身に付かない。加えて、アルバイトや実務経験で得られる知識は、実践・応用知識が多いために、陳腐化のスピードも速く、外部へアウトソーシング(外部委託)されることも多いので、働く個人のスキルとなり難い。
 問題を複雑にしているのは、アルバイト先行の学生ばかりではなく、授業に出てくる学生にも同様の傾向が見られることである。教員の講義内容を漠然と聞くだけで、そこで知り得た知識をベースにして自分で考えるという習慣ができていない学生が多い。(指導があっても)提出される課題レポートに、知識を整理しただけで自分の意見が述べられてないものや、あるいは、その反対に自分の意見だけを延々と述べるものがなくならない。
 グローバル化・IT化によって、知識の陳腐化が進み、長期の就業形態ですら保障されなくなっている状況にあるからこそ、「学び」によって自らの市場価値を高める必要がある。そのためにも、ただ「知る」だけの「学び」から一歩進んで、基礎・基本の知識を重視した「知る」ことと、知り得た知識を基にして「考える」ことを身に付けて、「学び」の質を高めることが重要になる。
 つまり、「知る」「考える」、そして自分の考えが足りない場合に、再び「知る」「考える」のループを繰り返すこととこのループを習慣付けることこそが、大学における「学び」の内容であり、大学教育の役割である。そして、それは同時に、学生が、変化の激しい社会において生きていくための適応力、社会における「生きる力」を身に付けることでもある。


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