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関西大学政策創造学部
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vol.8「時代の空気』」column by 深井麗雄教授
新聞記者をしていたころ、こんな話をした男がいました。
僕は大学の学費をほとんど手品みたいなバイトで稼いだ。たとえばトランプのカードゲーム。街角で客に何枚かのカードを見せてから裏返しにして、どれがハートのエースか当ててもらう。金を賭けさせ、ちょいとしたコツをつかんだら、めったに負けん。意外やったのはこのバイトが検事になってからも役立ったことかな。被疑者の取調べが難しいとき、カードで相手を遊ばせながらぽつりぽつりと、苦学生だったころのことを話すと、受けた。「検事さんも苦労したんでんな」、と言うて素直に真相を話し出す詐欺師もいた。
飲み屋で私にこう話したのは、特捜部のエースと言われた大阪地検の田中森一検事(当時)でした。20年ほど前のことです。そのころ私は毎日新聞社の大阪社会部で司法を担当していました。田中氏に限らず、裁判官や検事、弁護士の世界は私にとって十分にドラマテイックでした。大阪弁護士会の大物に尋ねたことがあります。「あなたはなぜ裁判官を辞めて弁護士に転身したのですか」。彼はとつとつと話し始めました。
京都の歓楽街での殺人事件の裁判がきっかけです。被告は無罪を主張していました。「取調べの刑事におどされて自白しただけ。自分は殺していない」と。刑事を法廷に呼び出して尋問しましたが、「天地神明に誓って、私は無理な調べはしていない」の一点張りです。しかしその直後、裁判はとんでもない方向に進みます。真犯人が警察に名乗り出たのです。冤罪を取り上げた映画「真昼の暗黒」を観て、良心の呵責に耐え切れなくなったそうです。びっくりしました。実は当時、私はすでに被告を有罪と判断して、判決文を書き始めていたのですから。刑事や検事がうそをつくとは思ってもいませんでした。私は世の中がわかっていなかった。不明を恥じ裁判官を辞めたのです。
こう語った元裁判官と動機は異なりますが、田中氏もその後、検事から弁護士に転身しました。バブルのころです。氏は最近のベストセラー「反転―闇社会の守護神と呼ばれて」(幻冬舎)で、転身後の暴力団や事件師たちとの濃密なつきあい、背後で札束が飛び交い、7億円でヘリコプターを買ったことなどを赤裸々に書いています。
彼の弁護士事務所でそんな舞台裏を聞いたとき、トランプを取り調べに使ったころからの彼の変身ぶりとは別に、バブル経済にわく時代の粘りつくような空気を感じました。「真昼の暗黒」のエピソードを聞いたときも、戦後ようやく冤罪の実態が明るみに出そうとしている司法の一種清々しい風向きの変化を感じたことです。
政策形成とメディアにはきわめて密接な関連があります。しかしその時代の空気や市民のニーズの変化を敏感に感知しなければ、いずれの機能も十分に発揮できません。そういうセンスをも政策創造学部で学生に伝えていきたいと思います。この雑文を読んでいる受験生の君、しごいてあげますよ。

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