本書は、文化背景の異なる人々のコミュニケーションについて考える本です。グローバリゼーションが進展し、人や物が多様に交差し出会う世界では、グローバル・マインドとローカル・アフェクトの両方を兼ね備えた人材が必要であることを提言しています。グローバル・マインドとは、多文化社会で起きるさまざまな現象をマクロの視点から見て理解し、分析できる認知的な側面での能力です。一方、ローカル・アフェクトとは、自分がいる場で人々の問題を感得し対応しようとする情動の面での能力です。本書では、グローバル・マインドとローカル・アフェクトの両方を異文化コンピテンスとして捉え、今必要とされる異文化コンピテンスとは、どのようなものなのか過去の異文化コミュニケーション研究の知見も活かしながら吟味し、新しい提言をしています。
本書の特徴として実践を重んじる立場から、アクティビティ、コラム、ワンポイント・スタディ、ディスカッションを設け、本書で理解したことを吟味する手立てを提供していることが挙げられます。これらを利用して考えながら読むと一層理解しやすいでしょう。
八代京子先生による書評があります。異文化コミュニケーション学会編集『異文化コミュニケーション』18号, 2015(印刷中)。
本書を読んで、単に国籍、民族、ジェンダー、地域、年齢、性的志向などが違うからということで安易に自分と他者の間に線引きをするのではなく、いつどこでどのような状況のときに線引きをしてしまう自分があるのかに気づいてほしいと願っています。自分と他者とのコミュニケーションは、相手との関係性の中で刻々とダイナミックに動いている現象であり、それにより「文化」も作られているものなのです。しかし、このように単純には捉えきれない現象のはずなのですが、「外人だから」「女だから」「障碍者」だからと決めつけ、相手と固定的な関係でしかコミュニケーションを図ろうとしない人の多いことでしょう。なぜ、そのようなことになってしまうのか、本書を通して考えてみましょう。