カリキュラム

教員エッセイ

第18回手塩にかける

商学部専任講師  岩本 明憲(流通専修)

 関西大学に着任する以前、東京の服飾系の大学で非常勤講師をしていたときのこと。私は大学の卒業パーティーに招かれ、私の授業を履修していた学生たちが卒業を迎えるということもあり、僭越ながら出席することにした。

 その大学は、1学年300人ほどの小さな大学で、事務職員に至っては、ほとんどの学生の顔と名前が一致しているほどの、アットホームな雰囲気であった。また、服飾という学科の性質上、少人数による実習科目が多く、専任教員と学生の関係も密であった。

 都内のホテルの会場に集まった卒業生は、お世話になった先生たちとの思い出話に花を咲かせ、目前に迫る社会人生活への意気込みを紅潮した面持ちで語り合っていた。パーティーも終わりに差し掛かり、拍手に迎えられ学生主任の女性の先生が壇上にあがり、こう「一喝」した。「諸君、これまで手塩にかけて育ててきたんだから少々のことで負けんなよ!」。

 規模も環境も異なる関西大学では、学生を「手塩にかけて育てる」ことは比較的難しいかもしれない。しかし、私は今でもこの「送辞」がふと頭をよぎることがある。期待に胸を膨らませて入学した新入生たちがいずれ新たな世界へと巣立っていくにあたって、少しでも、そして僅かな数の学生に対してであっても、「手塩にかけた」と言って送り出したいと願ってしまう。

 こうした願望を抱いている(中には、それを実現している)教員が関西大学には少なからず在籍している印象を私は持っている。学生の目からは、大学の先生はクールに映るかもしれないが、熱いハートを隠していることがしばしばだ。そうした教員の端くれとして、私は大量の「塩」を隠し持ち、熱いハートを持った学生との出会いを心待ちにしている。

『葦 №142号』(一部修正)より

2010年03月02日更新
※役職表記は、掲載当時のものです。

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