カリキュラム

教員エッセイ

第2回中国のブラック・ホール日本の展望はいかに

商学部教授  水野 一郎(会計専修)

 関西大学の交換派遣制度によって昨年7月上旬から10月上旬まで約3カ月間、上海の復旦大学に滞在する機会を得た。これまで何度か上海を訪れたことはあるが、いずれも数日間であり、今回のような長期の滞在は初めてであった。上海は複雑な魅力ある都市である。戦前は日本人が欧米の息吹を感じることができる日本に最も近い国際都市であり、また租界の多い植民地都市であり、青幇(ちんぽん)や紅幇(ほんばん)が暗躍する魔都上海でもあった。上海は多くの日本の文化人を魅了し、芥川龍之介に勧められて上海に滞在した「新感覚派」の横光利一は、その後有名な小説『上海』を著した。

 中国では長江(揚子江)を龍の身体に喩えて長江の河口に位置する上海を「龍頭」と呼び、中国の経済発展の牽引車、成長のエンジンに喩えることが多い。実際ここ10年間の上海の経済成長はきわめて高いものとなっている。2008年の北京オリンピックに続く巨大イベントが2010年に上海で開催される万国博覧会である。現在そのために道路や地下鉄の建設など一層のインフラ整備が進められている。今や上海には高層ビルが4千棟近くあり、日本全国の高層ビルを合計した数よりも多くなっているといわれている。

 数年前に「上海を制するものが世界を制す」と題された著書が公刊されたが、上海の活力には「昇竜」を感じさせるものがある。リニアモーターカーの運行、地下鉄や軌道線の延長、歩行者天国となっている南京路や再開発でおしゃれな観光スポットとなった新天地、整備された外灘(バンド)など。それ以外にも住んでみると多くの公共交通機関で使用できる公共交通カード(プリペイド式のICカード)やコンビニの便利さに驚かされた。なによりも派遣された復旦大学は、新しい体育館や立派な高層ビル、5つ星ホテル(クラウンプラザ)の誘致や周辺の整備などキャンパスも大きく変貌していた。

 幸田真音は上海を舞台にした最近の小説『周極星』において、現在の中国がその強力な「引力」によって、ありとあらゆるものを世界中から引き寄せ、まるで宇宙のブラック・ホールのようにその巨大な体内に取り込んで急成長を遂げていると語っているが、その中心が上海である。上海経済圏の発展にともなって日本からこの地域に進出する日系企業も日本人もこのブラック・ホールに引き込まれている。定住者が約5万人、出張や観光で約5万人、合計10万人近くの日本人が上海経済圏で活動しているとのことである。関西大学の卒業生で組織される上海関大会も120人を超えている。

 1862年6月この都市を目の当たりにして日本の将来を危惧した幕末の志士高杉晋作は、もし現代の上海を見れば何を想い、何を憂い、将来の日本をどのように展望するのであろうか。現代の高杉晋作はどこにいるのだろうか。

 


上海で最も有名なホテル(グランドハイアット上海)の54階から87階までの吸い込まれそうな吹き抜け


高杉晋作も眺めた黄浦江と現代の上海を象徴する東方明珠塔

『関西大学通信第340号巻頭エッセイより』

2007年12月06日更新
※役職表記は、掲載当時のものです。

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